CraftGene Craft_vol.0

旅、人、ものづくり。いい旅には、きっといい出会いがつきものです。職人との出会い、街を歩く楽しみ——。伝統工芸をはじめとした「ものづくり」をテーマにした特集記事を通して、日本各地を旅してみませんか?


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8CraftGene『うちは気仙沼の蔵元で、ご覧の通りすぐ近くには大きな港があって、たくさんの美味しい魚が揚がってきます。だから私たちはそこで揚がった魚、刺身の邪魔をしない酒をつくる、その考えが基本です。そういった場所柄があっての私たちの酒なので、そこはこれからも変わらないと思います』あぁ、なるほど。そういうことか。日本酒って、その土地その土地でつくられてきたものだから、その酒とあわせる肴もその土地その土地の味覚がある。今でこそ日本中で全国の地酒を楽しめるけど、ひと昔前まで地酒は全国各地の酒飲み、その土地に住む巨大な綿のような酒飲みたちにすべて吸収されていったのだ。だからこそ、その土地の肴、味覚にあった酒として、全国津々浦々でたくさんの地酒がつくられてきた。そのことに、あらためて気づかされた。『私が就職した30年前は、宮城県内に酒蔵が50軒ほどあったのが、今では約20軒を残して廃業してしまいました。日本酒の消費量も年々下がっているのが現実です。だから私としては日本酒にいろいろな味があって、その分たくさんの人に日本酒の楽しさを知ってもらえるなら、それはそれでいいと思います。日本酒のファンが増えてほしいです』日本酒のファンが増えてほしい。酒づくりに携わる杜氏だから、そう言うのは当たり前でもある。でも、その響きには打算や損得以外のたくさんの思いが込められている。天気予報を毎日気にしながら細かな温度調整に奔走し、1つ1つ丁寧に酒づくりをこなしていく現役の杜氏としての思い、一人の酒飲みとしての思い、そして先輩たちから受け継いできた“日本酒人”としての思い――。そうか、分かった。最初にこの蔵元を目にしたとき、なんで「大規模」という言葉が似合わないと感じたか。大規模な工場」という表現は現代的な工場のイメージにつながって、それはそのまま「営利効率最優先」というイメージへ自分の中でつながっていく。でも、この蔵には美味しいお酒を確実に、結果的に効率良くつくるために、必要な手間はもちろん、もしかしたら現代の工業界から見たら非効率的とも言われかねない「人の手」と「思い」がたくさん詰まっているんだ。その雰囲気が建物全体から染み出ちゃっているから、そう感じたんだ。日本酒、おもしろいな。今夜は気仙沼のために、一杯飲もう。


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