CraftGene Craft_vol.0

旅、人、ものづくり。いい旅には、きっといい出会いがつきものです。職人との出会い、街を歩く楽しみ——。伝統工芸をはじめとした「ものづくり」をテーマにした特集記事を通して、日本各地を旅してみませんか?


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KESENNUMA7CraftGene0.5℃ずつ、上げたり下げたり発酵は20日から30日かけて行われ熟成が進められ、その間、細かな温度管理がまた大切になるそうだ。純米酒で7℃から15℃まで、吟醸酒は5℃から12℃まで、0.5℃単位で温度を上げて発酵させ、0.5℃ずつ下げて落ち着かせていく。温度を上げるためにタンクを巨大な電気毛布でくるんだり、下げる時は水を通したパイプをタンクに張り巡らせたり、細かく細かく面倒を見て、ようやく酒になっていく。『仕込みが始まると天気予報が気になって仕方ないんですよ。特に冬の始まりの頃は急に気温が上がったり下がったり、気温の変動が大きくなる日もありますから』「その様子を把握して温度管理するのも人の経験によるわけですよね。発酵させるのも難しそうだし、やっぱり酒づくりの中では大事な部分ですね」『そうなんです。ただ私たちが思うには、それでもやっぱりいい米がないといいお酒はできない。だから発酵も大事ですけど、一番は米だと思っています』醪は最後に絞られ、多くは火入れと呼ばれる63℃での高温処理がなされ、清酒として瓶詰めされていく。どの工程も大切で、どの作業でも繊細な気配りと判断が繰り返されつつ酒づくりは進んでいく。それでもあえて「米が一番」と口にする柏さんと男山本店の姿勢に、あらためて日本酒がなんなのかを知らされる思いがする。「酒づくりにはやっぱり経験が必要だし、根気がないと無理だなあ」『ただ、長くやっていれば出来るっていうものでもないんです。やっぱり目的意識がないと。昔の杜氏さんは教えるということがなかったので、私なんかの時代はその仕事を見ながら少しずつ経験を積んで覚えてきたところはあります。今の新入社員は発酵技術にしても農業大学で基礎を学んでから入社してくるので、覚えは早いですよね』「なるほど、杜氏さんになる人って、今は農大を出る人が多いんだ」『ただ、大学で基礎は学べても、実際に蔵元に入ると苦労はあると思います。うちにはうちのつくり方がありますし、一口に酒づくりと言っても蔵によって細かな違い、細かいけれど大きな違いがあると思うんです。だから最終的に、その蔵ごとの酒が出来るんだと思うんです』そう、最初にも書いたように、ここは株式会社男山本店。会社だ。だから杜氏と言っても社員の一人なわけで、事業計画の下、営利団体としての経営が行われているわけだ。そこで、ちょっと会社員的な質問をしてみた。「僕は純米酒のようなわりとしっかりした日本酒が好きなんですけど、日本中の酒を見ると柏さんも個人的に好きな銘柄ってありますよね?」気仙沼の酒だから柏さんは中空になにかを探すような目をしながら、「うん、ありますねえ」と何度か頷く。やっぱり日本酒が好きなんだろうなあ。いまどの銘柄が頭に浮かんでるんだろう?その表情を見て、なんだかこちらまで嬉しくなってしまう。「その中で、日本酒も最近の流行りでは吟醸系の香りがたつお酒が人気だと思うんです。香りが華やかで、味はさらっとしているような。たとえば会社としてはもちろん、経営を考えればそういった売れ筋の酒をつくりたいと思うかもしれません。一方で、杜氏としては自分が好きな味の酒づくりを追及したいと考えるのも当然だと思うんです。たとえば、柏さんが求める日本酒の方向性が会社と一致しない時はどうしてるんですか?」「うーん」、柏さんは少し考えてから、ゆっくりと口を開く。『そこは話し合いですね。ただ、今のところうちでは会社と杜氏の考えが近いので、そういったことはあまりなかったです』「そこは男山本店の酒が確立しているからですか?」


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