CraftGene Craft_vol.0

旅、人、ものづくり。いい旅には、きっといい出会いがつきものです。職人との出会い、街を歩く楽しみ——。伝統工芸をはじめとした「ものづくり」をテーマにした特集記事を通して、日本各地を旅してみませんか?


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KESENNUMA5CraftGene日本酒は米が命農家と酒蔵。日本酒は米から出来るわけで、そうなるとそうか、米ってやっぱり日本酒の命なんだなあ。夏が暑い年のお米は固くなり、高温障害と言われるそう。最悪なのが、暑い夏の後、秋に入って長雨が続くこと。そうするとお米が割れやすくなり、酒づくりにはとてもやっかいなお米が増えるんだと。そういう意味では、酒づくりは自然による部分も大きい。今年はどんな夏になるんだろう?それにしても。もし自分が米の状態を判断する仕事を任されたら、けっこうなプレッシャーだろうなあ。お米に水を吸わせたら、蒸しに入る。男山本店では、仕込みをしている期間は毎朝8時頃から蒸す作業を始めるそうだ。もちろん蒸し方にもコツがあり、柏さんの話によると、ガイコウナイナン」で蒸すのがいいんだと。ん?ガイコウナイナン?『お米は最初は水(蒸気)で蒸して、後半の15分は風に通します。そうすると、外は硬くて内側は柔らかな、外硬内軟(がいこうないなん)の蒸米になります。これが酒づくりに理想の蒸米と言われています』柏さんは物静かな口調で、時に少し考えながら、言葉を丁寧に選んで説明していく。静かな口ぶりの中には凛とした佇まいがあり、誠実さと真剣さ、なにより日本酒への思いがにじみ出ているようだ。当たり前だけど、職人さんなんだ。「次にこちらへ来てください」すでにいろいろと話を聞いた気になっていたものの、まだ米を研いで洗って蒸したところだけ、ほんの入口だ。入口だけど大切な過程を一通り見てから隣の部屋に移ると、大きなタンクが並んでいる。木の階段を上って2階に上がると、タンクが大きな口を開けているのが見える。「ここでいま、お米が発酵しています」蒸米は一度5℃まで冷やされ、そこに麹菌をかけていく。麹菌は米を発酵させるために欠かせないもので、文字通り“菌”なので、低温だと活動は鈍る。実際、麹菌の活動が活発になるのは32℃と、まさに梅雨時の気温のイメージだ。しかし、この工場の2階は湿度を感じるものの、温度はおそらく10℃あるかないか。しっとりと冷たい空気がじわじわと身体に染みてくるような環境だ。冬と寒さと日本酒そう、そこで。個人的に、日本酒に関してずっと思っていた疑問があった。「あの、気仙沼もそうですけど、日本酒の酒蔵って寒い地域に多いイメージがあるんです。でも、そもそも米を発酵させようと思ったら、暖かい南国のほうが向いてるんじゃないかと思うんですけど……」『あぁ、なるほど。ただ、日本酒をつくる過程は、どちらかというと発酵をできるだけ抑える作業になるんです』「え、抑えちゃうんですか?」『そうなんです。たとえば蒸米に麹菌をかける時、蒸米にまんべんなくかけるのでなく、一部だけにかけます。麹菌は米の内側まで根を生やすことで、その酵素力で米のデンプンをブドウ糖に変えていくのですが、麹菌を蒸米の一部だけにかけるのは、麹菌の力で蒸米全体に広がらせるためです。そして外硬内軟に蒸すのも、菌の力で表面の硬い部分を破って、内側に根をはらせるため。そういう環境を作ることで、力のある麹を育てるんです』「へー!菌を鍛えるわけですね。発酵を抑えることで、力のある麹ができると」たしかに軟弱な麹よりは、力のある麹からできる酒のほうが、旨そうな気がする。イメージだけど。麹菌を米にふりかけ、麹菌自身の力で米全体に広がってきた様子。日本酒づくりは麹菌さえ甘やかされることはない。囁く米と麹菌。まさに今、元気に発酵しているのだ。これを手で扇いでそっと嗅ぐだけで、息ができなくなる。みんなぜひ試してください。


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